
Toni Braxtonの名曲『Un-Break My Heart』(1996)を和訳しました。
音やリズム、メロディを大切に、歌詞のニュアンスを自然な日本語で意訳しています。
また、歌詞の意味や曲の背景についても丁寧に解説します。
概要と解説
1996年リリース、トニー・ブラクストンのセカンドアルバム"Secrets"からのシングル。
全米Billboardチャートでは11週連続1位を獲得し、グラミー賞を受賞。世界中で大ヒットを記録した彼女の代表曲です。
"Un-Break"は造語で「壊れたものを元に戻す」という意味があるそうです。作詞をしたDiane Warrenが「今まで聞いたことがない表現でおもしろい」とタイトルから曲を作ったそうです。
当初、トニーはこの曲を歌うのを嫌がり、「これ以上失恋ソングを歌いたくなかった」と後のインタビューで語っていたそうです。しかし、結果的に彼女の代表曲となり、90年代R&Bの最高傑作バラードの一つとなりました。
この曲はいわゆる普通の失恋ソングとは違うと個人的には解釈しています。
まず、ミュージックビデオでは恋人との死別が描かれている点です。もちろん、MVと曲が100%一致しているかと言われればそうでない曲もたくさんありますが、後述の歌詞の内容からも明らかにただの別れではないイメージがあります。
タイトルの"Un-Break My Heart"は「壊れた心を元に戻して」という意味になります。その他にも、"come back and~"や"undo"、"un-cry"、"bring back"、"take back"など、「戻したい」という気持ちを表現する単語や表現が散りばめられています。
関係の悪化や裏切り、一方的な別れによる未練などでは、ここまで「元に戻したい」という表現は使われないと思います。
さらにトニーのボーカルが凄まじく、ブレスの際に声が震えていたりもします。
これらを考えると、この曲はただの別れではなく、彼女の意思に反した「永遠の別れ」を歌っていると解釈します。もちろんMVで描かれる事故だけではなく、様々な形での永遠の別れを想像出来ます。
愛する人をまるで奪われたかのような、神様や運命へ訴えるような、行き場のない悲痛な思いが歌詞に込められていると感じます。戻したいけど戻せない、だからこそ「戻して」「返して」「置いていかないで」という表現が多く出てくるのだと思います。
今回の私の和訳では上記の「別れ」をイメージし、あまりにも悲痛で切なく、心が泣き叫んでいるような、そんな表現で意訳しております。
和訳動画
歌詞と和訳
歌詞はこちらから
[Verse 1]
Don't leave me in all this pain
この痛みを残して
Don't leave me out in the rain
雨に置き去りにしないで
Come back and bring back my smile
もう一度笑わせて
Come and take these tears away
この涙を拭いて
I need your arms to hold me now
抱きしめて、いますぐ
The nights are so unkind
夜はとても冷たい
Bring back those nights when I held you beside me
あなたの温もりがあった、あの夜を返して
[Chorus]
Un-break my heart
心をなおして
Say you'll love me again
愛してるとその声で
Undo this hurt you caused
この痛みを消して
When you walked out the door
あなたはいなくなった
And walked out of my life
私を置き去りにして
Un-cry these tears
涙を返して
I cried so many nights
もう枯れてしまった
Un-break my heart
心をなおして
My heart
この心を
[Verse 2]
Take back that sad word goodbye
さよならなんて聞きたくない
Bring back the joy to my life
幸せだった日々を返して
Don't leave me here with these tears
もう流す涙もない
Come and kiss this pain away
そのキスで忘れさせて
I can't forget the day you left
最後の姿が焼きついてる
Time is so unkind
時間は癒やしてくれない
And life is so cruel without you here beside me
あなたのいない人生なんて耐えられなくて
[Chorus]
Un-break my heart
心をなおして
Say you'll love me again
愛してるとその声で
Undo this hurt you caused
この痛みを消して
When you walked out the door
あなたはいなくなった
And walked out of my life
私を置き去りにして
Un-cry these tears
涙を返して
I cried so many nights
もう枯れてしまった
Un-break my heart
心をなおして
[Bridge]
Don't leave me in all this pain
この痛みを残して
Don't leave me out in the rain
雨に置き去りにしないで
Bring back the nights when I held you beside me
あなたの温もりがあった、あの夜を返して
[Chorus]
Un-break my heart
心をなおして
Say you'll love me again
愛してるとその声で
Undo this hurt you caused
この痛みを消して
When you walked out the door
あなたはいなくなった
And walked out of my life
私を置き去りにして
Un-cry these tears
涙を返して
I cried so many, many nights
もう枯れてしまったから
Oh, un-break my
この心を
[Post-Chorus]
Un-break my heart, oh baby
心をなおして お願い
Come back and say you love me
もう一度、愛してると言って
Un-break my heart, sweet darlin'
心をなおして お願いだから
Without you, I just can't go on
あなたなしでは、私はもう
[Outro]
Say that you love me, say that you love me
愛してると、愛してると言って
Tell me you love me, un-break my heart
愛してるって、そして心をなおして
Say that you love me, say that you love me
愛してると、愛してると言って
Tell me you love me, un-break my heart
愛してるって、そして心をなおして
Say that you love me, say that you love me
愛してると、愛してると言って
Tell me you love me, un-break my heart
愛してるって、そして心をなおして
Say that you love me, say that you love me
愛してると、愛してると言って
Tell me you love me, un-break my heart
愛してるって、そして心をなおして
歌詞の意味と和訳のポイント
“The nights are so unkind”
unkindには不適切な、意地悪な、冷酷な、などの意味があります。ここは直訳すると「夜はとても意地悪で、冷酷で」などになります。
私の訳では「夜はとても冷たい」としました。これは後述のラインとの対比を考えてのことです。
unkind(アン”カイ”ンド)の音と、冷”たい”の音も意識して合わせました。
“Bring back those nights when I held you beside me”
直訳すると「あなたがそばにいた、それらの夜を戻して」という意味になります。ここでは前述の「冷たい」との対比で「あなたの温もりがあった、あの夜を返して 」と意訳しました。
besideという物理的な距離感から温もりを連想し、その対比になるようunkindを冷たいと意訳しました。
“Un-break my heart”
タイトルでもあるこのラインは「心をなおして」と意訳しました。「私の心を元に戻して」が直訳ですが、冗長に感じるため短く意訳しております。「なおして」という表現から壊れた心というイメージもつかみやすいかと思います。
“Say you'll love me again”
直訳すると「もう一度愛すると言って」となります。「愛してるとその声で 」と途切れる表現で切なさを意識したのと、you willのこれからも・・・という叶わない願いのイメージも表現しました。
“When you walked out the door/And walked out of my life”
直訳すると「あなたがドアを出ていった時/そして私の人生から去った」となります。この前のラインからUndo this hurt you caused「あなたがこの痛みを生じさせたのは、あなたがドアを出ていった時」と繋がります。
ドアを出ていったという具体的な映像を日本語にしてしまうと、どうしても家の中で口論をして彼が出ていったようなイメージになると個人的には感じました。
なのであえて「ドア」というワードは出さず、「あなたはいなくなった」と意訳しました。(Verse 2の意訳でドアのイメージは拾っています。)
そしてAnd walked out of my life は「私を置き去りにして」と意訳しました。冒頭の「雨に置き去りにしないで」でも使いましたが、「置き去り」にすることでいなくなってしまった彼を少し責めているような表現にしました。
これは「どうしていなくなってしまったの・・・」という行き場の無い彼への気持ちや、神様や運命のせいにするような感情などをイメージしております。
もちろん死別という解釈をするなら、彼が望んでいなくなったわけではないので、そのやるせなさ、誰を責めても仕方がない、でもどうして・・・という悲痛な気持ちを表現したつもりです。
“Un-cry these tears/I cried so many nights”
直訳すると「流した涙を元に戻して/とても多くの夜泣いた」となります。”un-cry”も造語です。
ここでは「涙を返して/もう枯れてしまった」と意訳しました。毎晩泣き続け、もう流す涙もないほど、辛い思いをした情景を詩的に表現しました。
“Don't leave me here with these tears”
直訳すると「これらの涙とともにここに置いていかないで」となります。
サビで「涙を返して」と意訳した流れから、逆説的に意訳し、「もう流す涙もない」にしました。独り置き去りにされ、ずっと泣き続けた→もう流す涙もない、という解釈です。それだけ長い間ずっと泣き続けているという辛い情景をイメージしました。実際、ミュージックビデオではトニーがずっと泣いている描写が続きます。
“Come and kiss this pain away/I can't forget the day you left”
このラインはかなりこだわって意訳しております。
まず、 Come and kiss this pain awayで「ここに来て、キスで痛みを消して」という直訳です。”kiss away”で「キスで癒やす、痛みを和らげる」などの意味があります。しかし、日本語で「キス」にするとどうしても唐突な感じがするし、直訳ベースだと不自然に感じてしまいます。
そこで「キスで忘れさせて」とロマンチックに意訳しました。「忘れさせて」はこの次のラインに出てくる”forget”も拾っております。
そして”I can't forget the day you left”ですが、直訳すると「あなたが去った日が忘れられない」となります。ここでは「最後の姿が焼きついてる 」と意訳しました。
まず、「最後の姿」は書き換えれば「最期の姿」というニュアンスも込めています。あくまでミュージックビデオ準拠の死別をイメージした場合です。
また、サビで出てきた「ドア」のイメージをここで拾ったつもりです。つまり彼がドアから出て、それが彼との最後の瞬間だったと解釈できますので、ドアから出ていく後ろ姿が忘れられない、なぜならそれが最後だったから、というイメージで意訳しました。
そして「焼きついてる」は少々硬い言葉ですが、イメージとしてはまるで心を焼かれ、一生癒えることのない傷や痛みを表現しました。
“Undo this hurt”「痛みを消して」というフレーズもあるので、消したくても消えることのない傷=焼きついているという流れを意識しております。
“Time is so unkind”
Verse 1でも出てきた”unkind”です。Verse 1では夜だったので「冷たい」と意訳しましたが、ここでは時間なので「癒やしてくれない」と意訳しております。
前述の痛みや傷のイメージから、月日がいくら流れても決して癒えることのない悲しみというイメージです。
英語では同じ単語なので、Verse 1で説明したアン”カイ”ンドと冷”たい”の音合わせと同じく、癒やしてくれ”ない”と音を合わせて統一しています。
“And life is so cruel without you here beside me”
直訳すると「あなたがここでそばにいてくれない人生はとても残酷」という意味になります。
このままだと長ったらしく説明臭くなるので「あなたのいない人生なんて耐えられなくて 」と意訳しました。
これはR&Bではお馴染みのcannot live without you=君がいなければ生きていけない、のイメージも含めての意訳となります。